死を受け入れるためのヒントとしての「般若心経」

日本には中国から道義も伝えられたが、不老不死の実現ということにはそれほど関心は向けられなかった。むしろ、死は避けられないという認識を強く持ってきた。

だからこそ、「諸行無常」という言葉に引かれ、「般若心経」の説く空（くう）や無（む）に魅力を感じてきた。死が避けられないのであれば、それを回避しようとして無駄な努力をするよりも、それを受け入れ、その上でどのように振る舞うかを考えた方がいい。

あらゆるものを無常として捉えてきた背景には、「季節感」というものが影響していた。

日本には明確な四季があり、季節の移ろいがおのずと意識される。日本ほど四季の区別が明確な国はないとも言われる。季節が移ろいやすいものであるように、人間の生も移ろいやすい。

そうした四季の移ろいのなかで、それ意識してきた日本人は、ある状態がずっと継続されるとは考えない。春、桜が咲き誇っているときには、その美しさが永遠に続くかと思えてくるが、それは錯覚で、すぐに花は散っていく。その桜と同じように、あらゆるものが栄枯盛衰を経験せざると得ない。